白 日
"もう これまで" 君は顔をそむけていた。 "ごめん" 君の瞳が潤んだように見えた。 "さよなら" そう言った君に、 -------------僕は、ただ、笑った。 君の愛するひとが、 寂しいと言うんだね。 言葉でなくて、心で、 君を欲しいと呟くんだね。 君は優しいから。 きっと僕が重くて、 重くて 重くて。 大空が高く、 いつまでも広く、 きっと僕はここにいて、 ずっといて ずっと、 それでも どんなにいても 届かない。 でも 「この世の中なんて、そんなものでしょ?」 何もかもが あるがままの世界。 今ここにいるだけ、 "存在するだけ" の、 "君"と"僕"。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんごめんごめんごめん ごめんなさい。 君が叫ぶ衝動を、僕は押さえることもできないから。 君が求める あの身体を、僕は消し去ることもできないから。 ……したいとも思わないから。 だから泣かないで。 お願い。 僕の手を離す君を、 僕は追いかけない。 それを縋るように泣き叫ぶことも、 這いつくばることも、 僕には意味を知れない。 ただ、笑った。 何も言わずに、 笑った。 君のいなくなった部屋。 君の匂いがしない部屋。 君がいない部屋。 君がいない。 いない部屋。 真っ白で綺麗で清らかで、 何も音がない場所で。 僕は笑った。 ああ、もう夜も更けてきたから、 ベッドに潜り込んで、 『いいゆめをみよう』 笑いながら、自分にオヤスミ。 何だかとても 広くて広くて、 でもそれだけ。 あるがままの それだけの世界。 今までは ここに君がいて、 僕がいて、 それが全ての世界。 今は僕だけがいる、 それだけの世界。 …ただ、それだけ。 広いベッドの枕、 頭ひとつ分足りない空白を胸に抱いて、 解れた糸を引っ張って、 ぶちっ と 音を立てて引き千切った。 指に走る衝撃。 チクッと刺す痛み。 滲んだ血。 ドレミファソラシドのラがぬけてる、 不協な音が耳に鳴る。 『・・・・痛』 切れた指先から零れる滴。 不要な糸が今にでも、 何かを訴えかけて 僕に"痛み"だけ残して消えていくのを 僕は、ただ、笑った。 笑った。 夜中が過ぎていって、 ベッドをそっと抜け出して、 糸を断たれた枕の死体をぶら下げながら、 月明かりを眺める僕。 ぼんやり写る自分の影をみて 欠伸をした。 裸足の僕は、地面が痛かったから、 ちょっと大袈裟に驚いてみせる。 氷のような土の上。 刺すような痛く冷たい感覚。 薄いレモンのような三日月。 零れ落ちる滴。 ぽたり ぽたり。 大きな欠伸をし続けて、 目が霞んできて、 広がっていく、大きなしみ。 屈みこんだ僕は、 冷たい土をすくいあげて、 さくさくと さくさくと。 手がかじかんでも 感覚が無くなってきても、 その氷のような土を たださくさくと 掘り下げる。 大きな棺桶。 冷たい棺桶。 欠伸をしながら そんな自分を笑って、 僕は、屍と化した枕を埋めた。 埋めながら、泣いた。 生まれてはじめて、 声を出して泣いた------------。 長く長くいつまでも ずっとずっといつまでも 君が僕を見守ってくれてた時に、 本当はしがみつきたかった。 甘えて君に抱き付いて、 優しいKISSをせがんでも、 それはそこに君がいたから。 それはそこに僕がいたから。 好き、好き、好き、好き、 大好き、 大好き、 大好きで、 本当に大好きで、 ずっと一緒にいたくて、 でも未来を求めるのが怖くて、怖くて、 軽口でそれを伝える事しか出来なかった僕を、 どうぞ、 忘れてください-------------------------------。 見えなくなった僕の亡骸を、 思い出さないように、 思い出さなくてもいいように いっそこのまま、 冷たい棺桶で、 死んだ幻と一緒に眠れたらいい。 でも、それは夢。 僕は夢を見ない。 ずっと見ない。 きっと見ない。 君がいなければ、 どんな深い夜さえも、 これからは、ずっと白日。 *no dream,no future*
2004.T・U・E.Rin Inoue,
2002.WhiteBox.Josefine-kainahime |
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