ロシアン・ブルー











風が運んでくる午後の匂い。
ちょっと赤錆がした窓枠にかかる薄手のカーテンがゆら、と動いて
僕の鼻先を掠める。

そろそろ夏も終わり。
カーテンの隙間から覗いた空にはうろこ雲。
ながい ながい 行列を作って
ゆっくりと青い空間を旅してる。

時計の針は休む事無く時を刻むのに
その1秒はいつもより長い。
ううん、まるで止まってるようだ。



窓の外では、ぽかぽかした陽気の中、
グレーの猫がごろごろと昼寝をしてた。
時折、前足で顔をごしごしと撫でては、
だらんと力を抜いている。
何とも気持ち良さそうなその姿が
余計に時間の流れをゆっくりに留めているのかもしれない。

木製のチェアにもたれながら、
何となくその穏やかな様子を見ていると、
その猫が前足をいっぱいに伸ばし、大きな口で欠伸をした。
つられて僕も背もたれに思いっきり背中を預け、
大きく伸びをする。
くぁ、と続けて欠伸が出ると、チェアが少しぎし、と音を立てた。



「あれ、眠いんスか?」
丁度そこへアッシュが大きな盆を持って入ってきた。
そのままチェアと対になったテーブルにその盆を置く。

「ホットケーキ焼いたんスけど・・・」
眠いんならそっとしておいた方がいいのかな、という気遣いからか、
遠慮がちに盆からホットケーキの皿とティーカップを差し出すアッシュ。

「わぁ〜食べる食べる〜♪」
焼きたての香ばしいホットケーキとダージリンの香りが鼻をくすぐって
僕は反射的に背もたれから置きあがった。
アッシュは少し安心したような顔をして、向かいのチェアに自分も腰掛ける。
二人で囲んだテーブルからは、良い香りの湯気。




甘い甘いハチミツ。
とろとろに溶けたバター。
ふわふわのホットケーキは
僕の時間をもっと甘く穏やかにするようだ。

カーテンから時折そよぐ風に
身体をあずけると、心地よいまどろみに襲われそう。
窓の外では、まだ猫が昼寝をしている。


「あんなとこに猫いたんスね」
レモンの入ったダージリンティーに口を付けた僕に言う風でもなく
アッシュはそうぼそりと呟いた。

「うん・・・・さっきあの猫見てたら、つられて欠伸でちゃってさ」
ティーカップを持ったまま、僕は足をブラブラとさせる。
とっくに空になったお皿が、テーブルの真中でちょっと寂しそうに見えた。

「昼寝してる猫って気持ち良さそうッスよね〜」
頬杖をついて紅茶をすするアッシュが窓の外を見る。
一瞬、風がふわっとカーテンを大きく揺らした。


「あの猫、なんていうか知ってる?」
え?という顔をしてアッシュが僕を振り返る。

「ロシアンブルーっていう猫なんだよ」

むっくりと長い昼寝から置きあがった灰色の猫は、
背伸びをしたり毛繕いをしたり忙しい。
それでも時が止まったようにのんびりして見えるのは
猫特有の雰囲気なのかもしれない。

「へぇ・・・ロシアンブルーッスか」
窓の桟に手をかけて外を覗くアッシュの横に、僕も並んで外を見る。

「グレーなのにブルーなんて不思議だよね」
前足を舐めて一生懸命毛繕いをする猫を見ながら、
僕は窓に頬杖をついてそう呟いた。


「まるでアッシュと僕みたい」


そう、まるで-------------


灰[ash] に彩られた ブルーの猫。
視界が青い。
僕の濃青の髪の毛が風で瞼を塞ぐから。
ああ、そうしてると・・・・・本当に灰色の猫はブルーに見えるから
本当に・・・不思議だね。


じっと僕を見てる君は何を思うの?
こつんと寄せた肩。

君の温もりが肩越しに伝わる。
猫はまだそこでじっと佇んでる。


「アッシュと僕が混ざり合ったら・・・・いつか猫になっちゃうのかな」

頬杖をついたまま、じっと見上げる僕に、
少し困ったような顔をしながら、アッシュは小さく呟いた。

「猫になったらなったで・・・・それもいいかもしんねぇス」

軽く触れ合った唇。
猫に見られちゃうんじゃないのかなぁ、なんて
そんな事を考えながら、僕らは ながい キスをした。




混ざって
混ざって
溶けて
溶け合って

「君」が「僕」と同じになる。
優しいそのてのひらが僕を包む時、
僕は君の腕になる。
優しいその唇が僕を追いかける時、
僕は君の喉になる。

固く結んだ二つの手が絡まり合い、
君は僕に口付ける。

甘えるように、乞うように、
僕が君の背中を固く抱きしめたら、
そう、一つになろう--------

混ざって、溶けて
猫になっちゃおう-----------------












窓から見える色彩は、もううっすら赤紫。
カーテンを揺らす風は、少しだけ温度を下げていた。

僕は、アッシュの腕の中でごろごろしていた。
その首にしがみ付いたり、頬を胸元にくっ付けたり。
少し汗ばんだ肌をぴっとりとくっ付けて、
僕はその頬に唇を寄せてうずくまる。

「ロシアンブルー、もういなくなっちゃったね」
くっ付けていた身体を離して、むくっと置きあがった僕の視界には
ただ紫がかった茜色の空が見えるだけだった。
何となく、まだそこにいるような気がしていた猫は、
何時の間にかどこかへ行ってしまった。

ふと、背中から回された君の腕。
切ないくらいぎゅっと抱きしめられて、
僕はその体温に心が溶けていくような感覚を覚える。

「アッシュ・・・・」
振り向くことすら出来ないほど固く包まれているのが心地いい。
僕はそのまま、アッシュの腕の中で目を閉じた。

「俺らが一緒になったから・・・・もう猫は消えたんスよ」
耳元でそう呟く声がした。



そうかもしれない------

そう思いながら、
僕達は何度目かの キスをした。






*cat* 2005.T・U・E.Rin Inoue.





ロシアンブルーは青と言っても、本当に見た目はグレー
青味がかった灰色っていう感じの
ベルベットみたいな毛並みがとーってもキレイな猫です
なんか考えてるイメージが上手く文章に出来ませんでした
いつもの意味不明な詩(S.S.)よりは
ちゃんと分かりやすく書いたつもりですが・・・
何せちゃんとした文章が苦手なもので;
ちょっち尻切れな感が否めないのはご勘弁
抽象的に書かれたエロ部分はいらなかったかなーとも思います・・
しかし裏サイトのえろ小説と比べると凄い差ですね;
とってもメルヒェン・・・・・・
甘々久しぶりに書くのでちょっと恥ずかしい気持ちになりました・・






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